炎山Ver.

「あれが、デューオの彗星・・・」

 目に映るのは禍々しいばかりに青白い輝きを夜空に引いて走る、巨大な星。

「俺にも見える」

 たったいままで、ただ一人を除いて誰の目にも止まることの無かったその星が、自分の目の前に姿を現していた。
 ただ一人・・・アイツだけに見えていた、それ。

「炎山、お前もデューオの紋章を・・・」

「いつからだ?」

「え・・・?」

「いつから、その紋章のこと気づいて黙っていたんだ?」

「あ・・・」

 まっすぐに見据えれば、とたんにバツの悪い顔で目をそらす。

 ・・・彗星が見える。

 そう告げられたのはデューオとの初めての接触の直後。そのときは紋章の話題などかけらも出されなかった。

「・・・・・・最初の、デューオの彗星から帰ってきたとき」

「!・・・初めからじゃないか」

 驚いて出した声の大きさに、身体をびくっと震えさせて。けれどそれ以上に打ち明けられたことの重大さでこちらの方が目を見張った。
 得体の知れない紋章が掌に浮かび上がり、それが人類を滅ぼそうとしている存在によって刻み付けられたものであるというのだ。
 そしてどのような影響を及ぼすのかも、わかっていない。
 それを思ったとき背筋に薄ら寒ささえ感じたというのに。
 もう何ヶ月も前に紋章の存在を知っていた彼は不安ではなかったというのか。

「どうして黙っていたんだ」

「悪ぃ。けど俺だけだと思ってたし、一瞬で消えちゃってなんとも無かったから」

「何かあってからでは遅いだろう!」

「う・・・ゴメン」

 平然と答える姿を見ているとどうしてか苛々してくる。こんな大事なことを周りに知らせなかったこともあるが、何よりも自分にすら打ち明けてくれなかったのが悔しかった。

「仲間だと思っていたのは俺だけだったってことか?」

「っ・・・違うよ!」

「隠し事をされてて何を信用しろと?」

 射抜くような視線で捕らえれば、ぐっと黙り込んだ唇が僅かに震えている。
 誰かを欺くことを何よりも嫌っていることを知ってぶつけた言葉は、思ったよりも堪えているらしい。
 もちろんわざと選んだ言葉だから、謝りも訂正もするつもりはない。

「誰も・・・巻き込みたくなかったんだよ」

 やがてぽつりと語られた真実は、ある程度予測していた通りの答えだった。

「俺だけだと思ったから。みんなを巻き込んで、大切な人たちが傷ついたりするの、見たくなかった」

 俯いた彼がどんな顔をしているのかはわからない。けれどそれは、自分にはとても覚えのある気持ちであり、彼の優しさゆえの行動なのだということもよくわかる。
 そしてまた、かつて救ってくれた彼自身の言葉も自分の耳は鮮明に覚えていた。
 他の誰でもない、熱斗自身がくれた言葉で。

「自分だけで背負い込むな」

「炎山?」

 それをなぞるように口にしながら、どうかかつての自分のようにこの言葉で気づいてくれと願いを込める。
 周囲にはたくさんの人々の手が差し伸べられているのだということ。
 彼が傷つけば心を痛める人がたくさん居るのだということを。
 どうか気づいてくれ、と。

「俺たちは仲間なんだろう?巻き込むのではなく、共に戦う、だ」

「・・・・・・」

 初めて気づいたことのようにぽかんと口を開けている間抜け顔をくすりと笑い飛ばしながら。

「誰かさんの受け売りだけどな」

 すがすがしく言い放ち、両手を広げて空へと翳す。




 見上げた空には、まだ大きな彗星がどこまでも尾を引いて浮かんでいた。




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コメント▽
拍手のお礼に載せてた、アニメネタ連作です。まずは炎山。


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