「あはははっ。本当、まったく知りもしなかった?」

「何が・・・だよ!」

 ぐるりと取り囲む光の壁。
 その中でぴんと張り詰めた緊張感に一筋の汗を流して、熱斗は精一杯の虚勢を張ってみせる。
 すぐ間近で高らかに笑う人物は、表情こそ普段見せるそれとは全く違う歪んだものであっても、とても見覚えのある姿をしていて。

「ははは・・・可笑しいんだよ。ねえ”熱斗くん?”」

 どれだけ冷たい響きをしていても、聞き覚えのある声があたりに広がる。

「・・・・・・」

 楽しそうに笑い続ける彼・・・ロックマンは、まるで無防備に見えてその目はまったくそらされること無く熱斗を捉えていた。
 距離が近すぎる。

「熱斗くん・・・!くっ、少しでも気が逸れてくれれば・・・っ」

 PETの中から小さな声で呼びかける。
 これもまた同じ、ロックマンのもの。
 目の前と手の中との両方から同じ人物の声が聞こえてくるのだ。
 目の前に対峙するのは、闇の力を得てロックマンから隔絶されたもう1人のロックマン・・・ダークロックマンと名乗る、彼らの敵。
 彼らの周りを囲むようにディメンショナルエリアの壁が鮮やかな虹彩を放ち、そしてそれは鉄壁の城塞のように熱斗の退路を阻んでいた。

「逃げられると思ったの? 無理だよ」

 手を伸ばせばすぐに届く距離から声が響く。
 彼の言うとおり。
 この場所から出るにはエリアを支えているコンバーターを破壊しなければならない。けれど、熱斗は一歩もそこを動くことが出来ないのだから、それは不可能なことだった。
 手を伸ばせば届く距離。
 シンクロチップをスロットインするよりも早く、それこそ目の前の彼がやろうと思えば今すぐにだって、熱斗の喉をかき裂くことも可能なのだから。
 少しでも動けばそこまでなのだろう。
 それを感じているからこそ、熱斗は息を殺して立ち尽くしていた。

「熱斗くん・・・ボクが何とか隙を作るから。それまで何とか頑張って・・・!」

 大きな声で呼びかければもちろん目の前の敵にも聞こえてしまう。
 だからこそ小さな声で呟くように言ったのだけれど、熱斗には僅かに振動させたPETの動きで伝わったのだろう。小さくこつりと画面を叩く音が返事として戻ってきた。

「本当に、何も知らないの」

「・・・何をだよっ」

 叫べば息がかかりそうなほどお互いの距離は近い。
 クスクスと笑い続けるその顔は、敵であるという事実を抜けばロックマンそのもので、熱斗は眉を寄せて口を引き結んだ。

「そうなんだ! はは・・・っ、じゃあ知ったらどう思うだろうね? ずっと隠していた真実を!」

「真実・・・?」

 引きずられてはいけない、そう思うのだけれど。
 割り切るにはあまりに彼はロックマンそのものであったから。

「・・・まさか!」

 聞こえるのも構わずにか、PETの中から悲鳴のようなロックマンの声が漏れる。
 それは明らかに動揺の色が見え、逆に言えばダークロックマンの言葉が真実であることを示していた。

「隠してた? ロックマンが・・・?」

 初めて出会ったときから今まで、ずっと共に過ごしてきたはずで。お互いのことは何でも分かり合っていたと思っていたのに。
 目の前のもう1人のロックマンが、それを否定する。

「教えてあげるよ、熱斗くん。真実をね」

 笑う声が重なり、いっそう楽しいのか、ゆがめた顔は深紅の瞳をぎらぎらと煌かせながらゆっくりと口を開いた。

「やめろ!言うな・・・っ!!」

 大きく震えた手の中の振動。
 けれど熱斗の耳をふさぐものはない。

「誰も教えてくれなかったんだ?」

 この距離では言葉を遮られることもなかった。

「・・・ボクたちが、兄弟だってこと」

 そしてその真実は、確かに熱斗の耳を打つ。

「兄、弟・・・?」

 カタリと地面を鳴らした小さな音は、手を離れて落ちたPETがたてたもの。
 震える声で確かめた真実は、思った以上に現実味が無くて。
 けれどそれが確かな事実であることを、熱斗はそのとき知らされた。


end.









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コメント▽

ってわけで、続きません(笑)
こんな感じにいってくれたら発狂どころじゃありませんよ!(いえ、無理だとわかってますよ、夢くらい見させてください>笑;)
黒様萌えはとんでもない方向へ流れて行きそうです。


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