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それは深い意識の中で見た、ひとときの夢。 ぱちりと目を開けたらすぐ間近に赤い瞳があって、脈絡の無い状況に驚いて悲鳴をあげた。 「あれ、起きちゃった?」 くすくすと機嫌の良い笑顔で、宝石の様な瞳を細めながら伸ばした手をついと頬に滑らせ、軽く唇が寄せられる。 「な、な、な・・・っ!」 あまりのことに声も出せない。 フレンチ・キスのように軽い挨拶をされた頬はたちまち上気して真っ赤に染まりあがった。 そして次の瞬間、その相手が誰であるかを思い出し、青くもなる。 「大丈夫?熱斗くん。顔色が赤くなったり青くなったり、忙しそうだけど・・・」 「・・・お、お前っ」 ふと目を伏せて心配そうに見上げる姿は、熱斗を心配している言葉と同様に本性を隠す仮面だ。 その裏にあるはずの真意を探ろうと、射抜くように相手を睨み返したら、その表情は曇っていき。 「怖い目で見ないでよ、やだなぁ」 そう言って、ぺたりとすぐ脇の地面へ腰を下ろして微笑んだ。 どうやら戦う意志はないらしい。 熱斗に偽ったところでもう騙せないことは知っているはずなのに、何が目的で彼は微笑んでいるのだろうか。 「・・・わからない、って顔してるね」 まるで普通の会話を楽しむように自然な動作で首をかしげて、座り込んでいる熱斗に向かい合い、くすりと笑う。 「夢だよ、ただの」 短くそう告げたのだった。 「・・・夢?」 なんとなくは感じ取っていたけれど。面と向かって「夢だよ」と説明されると逆に違和感が沸いてくる。 ならばこれは熱斗が自分で見ている幻だというのか。 「眠っている意識は波長を合わせやすいからね」 疑問に思っていたことが顔に出ていたのか。 丁寧に説明してくれた内容を総合すると、どうやら夢であってもここに居る「彼」は本物だということらしい。 「何しに来たんだよ」 本物というわりには、先ほどからずっと感じている違和感に、熱斗は小さな声で問いかけた。 ロックマンと同じ姿をしていても、その性格は闇に染まり残虐で冷酷なはずなのに。 目の前の相手は何故かそんな気配を感じさせないのだ。 「せっかく来たんだから、少しくらい話してもいいじゃない」 微笑む彼の表情を見て。 やはり、何かが違うな、と熱斗は思った。 「ならば言わせてもらうけど」 こうやっていても、わからないことは考え続けるだけ時間の無駄である。 夢ならば、と開き直ることにして熱斗は会話を切り出した。 それは夢だからという理由もあったけれど、今の目の前にいる人物にならば伝えたいことが伝わるような気がしたからだ。 「どうしてロックマンを憎むんだ?」 「戦うべき相手だから」 答えは短い言葉で帰って来た。 どのようにも解釈できて、そして深い真意は読み取れない。 この顔に浮かべられた笑顔のように奥の本音は見せないつもりらしく、熱斗はならばとアプローチを変えてみることにした。 「じゃあ、戦うのを止めて」 「それは無理」 なんで、と尋ねれば。 少し考えるようにしてから彼は短く「戦うために生まれてきたから」と答えた。 ダークオーラはそのまま破壊の衝動となる。それを捨てる・・・つまり、闇を払うということは、彼自身の存在を消滅させることなのだという。 「・・・それじゃあ、ずっとここにいて」 「それも無理」 困ったように笑い、くしゃりと撫でた手のひらの感触は不思議と優しかった。 それを思うと、目の前の彼が闇の存在であるということが信じられなくなってくるのに。 「・・・どうして」 「朝がくるからだよ」 優しく告げたその言葉をきっかけに、辺りが次第に白んできて闇色の体は溶けるように見えなくなっていく。 手を伸ばし捉まえようとした指は空気をかいて、有るはずの存在に触れることが出来なかった。 困ったように赤い瞳が、熱斗を見る。 「キミが、目覚めるから」 「待ってよ、まだ・・・!」 続ける言葉は、音にはならない。 白一色に染まった景色は目覚めの時を知らせていて、次の言葉を熱斗が告げるよりもはやく、全ては朝日に飲まれていた。 ぱちり、と目を開けると。 朝日が差し込むカーテンから鳥のさえずりが聞こえてきていて、見慣れた自分の部屋だとため息が零れた。 目覚ましはあと少しで鳴るだろうか、という時間だ。 「・・・なんだよ、ほんとに一方的だな」 頬に残る感触という置き土産をしていった、悪戯好きの人物に向けて。 夢の中での優しさは都合の良い幻ではないと、残された熱が教えてくれる。 「うそつき、だ」 闇を全否定すれば消えるだけ、と言った彼だけれど。 ならばここに残った温もりは何だというのか。 だんだんと目が覚めていき、それが消えてしまうのが名残惜しくて。 熱斗はぎゅうと手の中のシーツに顔を埋めたのだった。 end. --------------------------------------------- コメント▽ 黒熱で初めて甘いお話を(笑) ていうか、甘くできるのか!と自分にツッコミたいのですが・・・;; 夢の中に悪戯しかけてきて、この後きっと黒様は楽しくて笑いが止まらないのでしょう。しばらくは。 BACK |
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