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繋がる想いの先(通販お礼ペーパーから再録) ずっと一緒に居られる。 その言葉に迎え入れられて、ボクはそいつの手をとった。 「おはよう、熱斗くん」 「ふぁぁ・・・おはよ」 ピコピコとPETの目覚まし音が馴染んだ部屋の中にけたたましく鳴り響く。 しかしこの寝坊常習犯の少年にとってそれは優しすぎるようで。定時に鳴り始めたというのに、未だ寝ぼけて瞼を擦る主を無視して、時計のデジタルはすでに大幅オーバーした時刻を示していた。 それにあわせて常ならば声を張り上げ「起きて、熱斗くん!」と叫ぶはずのロックマンが・・・今日はアラーム音だけで画面の中にこにこと笑って立っているだけ。 あまりに不自然なその行動に、ようやく目が覚めてきた熱斗は首を傾げて覗き込んでから、直後納得したように小さく嘆息した。 「・・・って、お前の方か」 「へえ、相変わらずだけど、良くわかったね」 姿はそっくり同じ。 けれど、熱斗には他の誰もが見間違えるこの2人の相違をはっきりと見分けることができる。 そう。目の前に立っていたのは、ロックマンと同じ姿をしているけれどロックマンではない存在。 データを元にして複製された同一体・・・それが彼の正体だった。 元々はロックマンに敵対するために作られた存在である彼が、戦いの終わったいまでもこうして存在していられるのはどうしてか。 必要とされないデータは破棄されるだけ。 彼もそのとおりに、存在意義が失われれば消滅する運命にあった。 だからこそ、あの爆発の中で消えてしまってももう構わないと思っていたというのに。 ボクの中に戻れ。 その声が聞こえたのは、最後の自我が掻き消える寸前のこと。 とっさに差し出されたその手を取ってしまったのは、聞こえてきた名前がもう一度会いたいと思っていた相手のものだったから。 そうすれば、ずっと熱斗くんと一緒に居られる。 光熱斗。 データを分けて生まれたその瞬間から、記憶領域に消せない存在として刻み込まれていた、最重要項目。 それはどんな厳重なプロテクトよりも堅く深く根付いた思いで、いまでも心の底に残されていた。ロックマンにとって光熱斗がどのような存在なのか、誰よりも良く理解することが出来て、同時にそれは同じ感情を持つ自分にとっては残酷な事実にもなる。 絆で繋がる糸の端と端は、違えることなく確かに2人へ通じていたから。 ならば自分は、そこからほつれた糸の破片か。 「クロ。あんまりロックマンを困らせるなよ」 「・・・だから、その呼び方やめてよね」 どんなネーミングセンスをしているのか、問いただしたくなるような名前だが。それはダークロックマンがロックマンに連れられて帰ってきたと知ったとき、まずは呼びやすい名前を考えようという熱斗の提案により、命名されたものだった。 確かにダークロックマンというのは、闇に染まったロックマンの同一体という意味を込めてリーガルが呼んだものだ。名前というよりはロックマンの影という皮肉を含んだそれを、彼自身嫌っていたのも事実。 でも。 それにしたって、もう少し呼び様があっただろうに。 さらりと呼ばれたその慣れない名前に、ダークロックマンは思い切り嫌な顔を返して。それから、少し考えるような様子をみせるとにやりと悪戯好きの笑みを浮かべた。 「あいつだったら、PETの中でまだ寝てるけど?」 そして、微妙に嘘の混じった答えを顔色ひとつ変えずに言ったのだけど。 「嘘だろ」 熱斗には通用しないようで、ひとことで却下されてしまい、また少し嫌な顔になる。 実際、ロックマンが寝ているというのは真実なのだ。 自分が強制介入でPETの表面に出ているから、いまはスリープモードに入っている・・・つまりは、眠っているというよりは眠らせたというのが正しいのだろうけれど。 「ま、いいけどさ。ロックマンがおとなしくそうさせているなら」 じっとこちらを見ていた熱斗だったが、スッと身を引いたかと思うと突然そう言ったため、ダークロックマンは少々驚いた。 ロックマンが一番である彼ならば、ダークロックマンが無理やりロックマンを押しのけて出てきたと知った時点ですぐに「替われ」と言うだろうと思っていたのに。 「良いんだってば」 すると、まるでその気持ちを読んだかのようなタイミングで。 「たいした抵抗もなく、眠らされるほどロックマンは弱くないって。だから、いまここにいるのは了解済みのことなんだよ」 そんな返事が耳に届いた。 どうやら考えていたことはお見通しだったようだ。 悪戯を仕掛けようと思っていたのに、返り討ちにされたような形となり、なんとなく面白くない。そんな表情を見せながら、けれど心の奥でクスリと笑う。 了解済みと、彼は言ったけれど。 実は少しだけ彼は気づいていない・・・間違えていることがあった。 確かにロックマンはダークロックマンの存在を受け入れて、こうしてPETの中へ迎え入れてくれている。 しかし、たぶんダークロックマンが熱斗へと向ける想いについては、彼と真っ向から衝突する部分に違いなかった。 かつて友情の意味を知らないと言った熱斗。 彼は気づくだろうか。 友情の意味を正しく理解して、そしてその他の多くの感情を、いまのダークロックマンが持っているのだということを。 (友情の絆、はロックマンが一番だろうけど) 先に存在した彼に、それは譲ってやろうと思う。 何も絆なんてひとつだけではない。それよりも素晴らしいものを、見つけてしまったから。 (だったら、愛情、の一番はボクが貰うからね) くすっ。 深い笑みを浮かべて、獲物を狙うような猫の目をするダークロックマンに。 ぞくりと背筋があわ立ったのは熱斗だけではなく。 友情と愛情と。 数々の感情を理解したダークロックマンの少しひねくれた友好表現によって、熱斗とロックマンが大変な苦労をしていくのは・・・この、後のことである。 --------------------------------------------- コメント▽ 05年秋に、通販お申込み下さった方へのお礼ペーパーに載せた小話でした。今回文章を少し手直しして再録です。 これ再録するか悩みましたが、イベントで本を買って下さった方へのお礼も込めてここに載せさせて頂きます。たぶん本を読んで無くても大丈夫だと思いますけど、黒+熱本「サイレントコール」の後日談になっていたり。 黒様生存ルートはこんな感じでお願いします。(もちろん捏造ですが;) BACK |
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