08.恋敵


※メイ熱風味。けど、やっぱり彩熱です。

 それに気がついたのは、偶然ではなくいつも気にかけて見ていたから。

「あ、なんか今日は目が赤い」

 ぽつりと呟いて、斜め前に座る幼馴染の横顔をじっと監察してみる。あまりジロジロ見るのも失礼なのだが、一度気になるとつい目が離せなくなるのは人の性というものだろう。
 クラスでもひときわ目立つ元気な姿は、いつだって誰かの輪の中にいることが多いのだけど・・・。

「あら、メイルちゃん?どうしたの?」

「あ・・・やいとちゃん」

 背後から突然声をかけられて、驚いたせいで一瞬肩がはねる。その仕草を不思議そうに眺めていたやいとは、親友の挙動不審な態度に視線を巡らせてから。

「ああ、なるほどねぇ」

 彼女が見ていたものを正確に見つけ出すと、ふふっ、と不敵に微笑んだ。
 それがあまりにも様になっていたもので、全部見透かされてるような錯覚にメイルは余計に慌ててしまう。

「な、何?なるほどって・・・」

「光くん」

「えっっ」

 さらに、急に名前を出されて動揺はピークに達した。
 完全に相手が上手だである。

「・・・うん、ちょっと今日は目が赤いなぁーと思って」

「はぁ。本当に、メイルちゃんは光くんのことが大好きなんだから」

「やっ、やいとちゃんっ」

 さらりと放たれた言葉には、周りに聞こえやしないかとハラハラしながら声を抑えて、まるで悲鳴のように名前を呼ぶ。
 実際は教室の中は休み時間で、皆が思い思いに雑談しているため2人の会話など誰の耳にもとまらなかったのだが。かえって慌てているメイルの声の方が、いくらか大きいのではないだろうか。

「どうせ遅くまでゲームとかしてて寝不足なんでしょ」

 まったく、男の子ってやつは。
 ため息でもつきそうな口調で呟くやいとの仕草は、外見は年相応に小さくかったとしても大人びたもので、どうしても年下なのだとは感じられない。

「心配するだけ無駄よ。光くんに関して言うと、こんなことで心配してるようじゃ、とてもじゃないけど身が持たないんだから」

 スラスラと流れ出る意見はもっともなもので。
 いつもとんでもない無茶をしてくれる幼馴染を持つ身では、日常の些細なことで気疲れしてなどいられない。ふと目を離した隙にもひとり危険な事件へと身を投じていくのだから。

(でも、もしかしたら)

 また、何か事件が起きているのかもしれない。
 ひとりであちこちを走り回って、くたくたになるくらい戦っていたのかも知れない。
 幼馴染の少年は優しすぎるから。いつでもひとりで立ち向かい、最後までメイルたちには何も話してくれないのだ。
 危険なことに巻き込みたくない。その台詞はこちらが言いたいくらいだと、どうすればわかってくれるのだろうか。

「そうだよね」

 からかうようでいて、実のところメイルを心配して話しかけてくれたやいとの気持ちを汲み取り、微笑んで同意する。
 本当に些細で、気にするような出来事でもなかったから。
 ただ、少しだけ普段との違いに気がついてしまっただけ。

「・・・けど、わたしもわかる気がするわ〜」

「え?」

 降ってきた声に顔を上げると、そこには親友の横顔。
 その視線が追う先は同じく見つめていたものがあった。

「頼りになるって言うか。そうね、会う人はきっと惹きつけられる」

 目立ちたがりなのよ。
 そう最後に付け足して茶化した言葉に、けれど隠された真意をメイルは読み取ってしまっていた。
 彼女もまた少なからず彼が好きなひとりだから。
 メイルに遠慮して隠しているわけでは無いのだろう。彼女が感じているそれは、恋愛感情というにはまだまだ小さな憧憬の念であり、それをやいとは自覚し純粋な好意として捉えていた。
 だからこそ、熱斗へ向けられる様々な想いがあることもこうして胸を張って言えるのだ。

「やいとちゃん、大人ねぇ・・・」

「あら、ありがと」

 ふふ、と零れた笑いは貴婦人の優雅さで。
 年下ではあるのだけれど、いつかこんなレディになりたいと、メイルに思わせるくらいの器量を持ち合わせている。

「けれどね、メイルちゃんは大変よ?」

 大丈夫?と続けるやいとの言葉に、何のことか捉えかねるメイルは首をかしげて素直に「何が?」と尋ね返した。心配されるような大変なこととは、心配ばかりかける困った少年の行動にか。それとも、ドがつくほど向けられる好意に鈍い相手の恋愛勘についてか。
 けれど、やいとが示した「大変」の意味はそれらのどれでもないような響きを持っているようだった。

「光くんのことを好きな人はすごくいっぱい居るけれど」

 もてるもてないの話では無く、見る人を魅了する輝きを放つ魂。
 彼の言葉や行動は数々の人の心を癒すのだ。

「きっとメイルちゃんの最大のライバルは、彼だと思うわ」

「あ」

 示された先に目を向けてメイルは「それ」を目撃した。
 淡い光を放つ画面の中に、彼を一番に心配する、そして一番に信頼する、特別な人の姿を。

「誰も敵わない、最大最強の、ライバルだけどね」

 何を話しているのかは聞こえないけれど、PETの画面に語りかけ、時折とても嬉しそうに笑いかけるその姿は誰にも見せない甘さを持っている。
 その相手は確かに「彼」の特別な人なのだ。

「・・・強敵ね、確かに」

 無意識に呟いた声はため息にも近く弱いものだったけれど、それは決して嫌な響きは持っていなかった。

(熱斗のことは、大好き)

 けれど、彼を傍らで守るその存在のこともまた、彼女は好きだった。
 まるで対になるように添い合う姿は、触れ合うことの無い異なった世界にあっても離れない絆を感じさせられて。
 彼らが引き離される未来など、メイルには想像することすら出来ない。

「いつか正々堂々、ライバル宣言でもしてみようかしら」

 笑いを含んで告げた言葉はまだ相手に届きはしないけれど、それを聞いたに目を丸くして驚かれるかも知れない。
 それを想像して少しだけ可笑しくなる。

 お互いにずっと、一人の人が好きなライバル同士で居られれば良い。
 いつか熱斗が一人を選んだとしても、その2人を、好きで居たい。

 それまでは力を蓄えて。
 いつかきっと打ち明ける告白は、ライバルへの宣戦布告だ。




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コメント▽
出したいネタは出せるときに。というわけで、お題ばかり更新続いてます;
しかも熱斗くん出てこないし;; うわぁ、彩熱視点のお話もあるんですが機会があればいつかそっちも・・・!
さりげなくやいとちゃん大好きです。アニメ1stエリアでは熱やいとか本気で考えてました(笑)←また思い切った告白
ゲーム版のメイルちゃんは健気で可愛くて好きですv(アニメ版は強いなぁー>笑)
次は頑張って連載の方へ力を入れていきます・・・!


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