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17.手を伸ばしても(前編) 「ねぇ、熱斗くんちゃんと聞いてる?」 「え?あ、ごめんロックマン。何?」 「もぅー」 「悪い、悪かったってば!」 何度目かの呼びかけにも上の空。 いつものごとく話を聞いていなかったらしいオペレーターに、ため息をつきいて拗ねた仕草をして見せると、ようやくこちらの様子に気がついたらしい。少年はわたわたと狼狽して画面を覗き込んだ。 夕方の人通りが途切れる時分、その付近は特に普段から利用されることの少ない場所であることも手伝い、人影は彼ら以外に見受けられない。 おかげで周囲の人を気にすることなく、長く続く坂道を、熱斗はローラーブレードでかなりのスピードを出し滑り降りていった。 突然舞い込んだ事件の知らせ。 近くの化学工場がウイルスに襲撃されたという情報が入り、寄り道をしながら帰路についていた熱斗たちがたまたま傍を歩いていたため、オフィシャルセンターから現場へ急行して欲しいとの依頼が舞い込んだ。 そのため、目的地へと向かいながら詳細な情報をメールで受け取ったロックマンから現場の状況を伝えられている最中だったのだ。 「ごめん、聞いてなかった。もう一回説明してくれよ〜」 「仕方ないなぁ・・・」 完全に呆けていたらしく、いままで話していた内容は全く聞いていなかったらしい。 結構な時間をかけて説明していたロックマンとしては説教のひとつでもしてやりたい気分であったのだが・・・。 「ごめん、ロックマン〜」 すまなさそうな表情で上目遣いに見上げる熱斗の、この顔には弱くて。 「じゃあ、今度は聞いててよね?」 今度はため息をかみ殺し、一度だけ軽く念を押してから、また最初からデータを展開し始めた。 熱斗が話を聞いていないことは別段珍しいことでもなく、どちらかというと授業中でも良く注意さることが多い。 だからこそというか、このときロックマンは得に気に留めたりはしなかった。 そんな些細なやり取りはすぐに忘れ去られ、目の前の事件へと2人の意識は向けられており。 ・・・それを彼が思い出すのはもうしばらく後のこと。 どんな場合においても、前触れとは事が起きてからそれと気づかされるものである。 *** 「オフィシャルより派遣されて来ました。ここは危険です、みんな早く外へ!」 扉を開け放ち、中へと踏み込むや否や凛とした声でその場を鎮める。 数々の場面を潜り抜けていくうちに、熱斗にもこういった場での立ち振る舞いというものが自然と身についてきていた。 それは、ただやんちゃだった少年が少しずつ大人へと変わっていく様でもあり、小さい頃から成長を見守ってきたロックマンにすれば親離れではないだろうが、何となく寂しさも感じる。 けれどそのたくましい姿は同時に誇らしくもあった。 「ああ、君が・・・頼む、この先の制御室がウイルスに占拠されて・・・!」 コンソールを激しく叩き操作をしていた一人が振り向き、熱斗に駆け寄ってくる。それに力強く頷き返すと、熱斗は男から制御室のパスコードを受け取りすぐに駆け出そうとした。 「君・・・っ!」 すると、男が突然大きな声を上げた。 PETのセンサーからしか外の様子を知ることが出来ないロックマンは、その男の大声に一瞬何事かと驚く。 「熱斗くん?何かあった??」 状況を知ろうと外へ呼びかけるが、それに対する答えよりも早く、男を押しのけて走り出し叫ぶ熱斗の声がロックマンの居るPETの中に響いていた。 「今はとにかく、ウイルスを何とかしないと!」 どうやら現状はあまり思わしくないらしい。 彼が言うとおり、ウイルスによって暴走したシステムは過剰加熱し、施設内の温度もかなり高くなっている。今はまだ人体に影響する程の温度ではなかったが、この速度で上昇を続ければ施設内に発火するのも時間の問題だ。 「熱斗くん、早くボクをプラグインして!」 「わかってる!!」 奥のコントロールルームに駆け込み、すばやくプラグイン端子を見つけ出した熱斗が腰に下げていたPETを掴むのはほぼ同時。 前へ構えた赤外出力から光となったロックマンが宙を駆ける。 「ロックマンエグゼ、トランスミッション!」 お決まりの掛け声が耳にパシっと気合を入れて反響し、瞬きをすればもうそこは見慣れた電脳空間の中だった。 「見つけたっ。炎系のウイルスがプログラムを攻撃してる!」 「ロックマン、すぐにウイルスをそこから引き離してくれ!」 「了解!」 「いくぞっ、バトルチップ「ワイドショット」スロットイン!!」 伝えたウイルスの情報を元に、すぐに有効なバトルチップが転送されてくる。それを受け取り、すでに駆け出していたロックマンは、一番手前に居た一匹を放った衝撃波で吹き飛ばした。 現れた妨害者の存在に気づいたウイルスたちが一斉に振り向く。 「来るよ、熱斗くん!」 「まかせとけ。バトルチップ「エレキリール」スロットイン!!」 差し迫るウイルスの最前列に突如出現した電気の糸は、飛び込んできた何匹もの敵を巻き込んで激しくショートする。 そしてその間にエレキソードを受け取ったロックマンが、背後に控えていた残りの数匹をデリートしていき、見事なコンビネーションで2人は次々とウイルスを撃退していき、戦いは優勢なまま進んでいった。 多少数が多いものの、それほど強いウイルスも居なかったおかげもあるのだろう。 思ったよりも簡単に事件は解決するように見えた。 ・・・少なくとも、ロックマンはそう感じていた。 「バトルチップ・・・っ」 それに違和感を覚えたのはどれくらい経った頃か。 (タイミングが遅れてる・・・?) 的確に選択されるバトルチップの転送速度が、いつもよりも僅かにタイミングを外して送られてくることに、ロックマンは気づく。こんな素人じみたミスを熱斗がするのもおかしいことだと思うのだが、戦いのさなかでそれを指摘する余裕は無い。 しかし確実にそのずれは大きくなってきていた。 「熱斗くん??どうし・・・」 流石に異常を感じたロックマンが問いかけようと呼びかけようとしたのだが。 まるでそれを妨害するかのようにふっと体の上を大きな影がよぎり、その言葉は最後まで紡がれる事は無かった。 見上げた瞳に映ったのは、炎を纏った大きな騎士の様なウイルスの姿。 「熱斗くん・・・っ!!」 「っくそ、バトルチップ「エレメントアイス」・・・っ!」 「うわぁっ」 武器が送られるよりも早く、大きく振り下ろされた炎の大剣に煽られるように背後へ飛び退る。バランスを崩して膝をついたところへ、追い討ちとばかりに再び振りかざされた赤い剣先が視界に閃いた。 「熱斗くん、早くバトルチップを・・・早くっ」 焦った声で叫ぶように空へと呼びかけると、突然右手の中にずしりとかかる重量を感じる。 秒刻みでの判断が生死を分ける中、ロックマンは勘だけを頼りにそれを掴み取り、敵の目の前へと懇親の力を込めて翳した。 「いっけぇぇぇ!!」 ごぉっ。 巻き上げるような風のうねりと共に、氷の粒が敵を包む。あっという間にフィールドを氷に変えて相手の炎を打ち消した吹雪は、ターゲットのデリートと同時に消え去った。 それを見届けて。 「ふう・・・」 ようやく肩の力を抜いたロックマンは、その場に座り込んだ。 「もう、一時はどうなることかと思ったよ」 呟きは電脳世界の向こう側に居るオペレーターへと向けられたもの。安心して余裕が出来たからこそ軽い文句も口に出来る。 けれどその声に返る筈の威勢の良い反論は、いつになっても降ってこなかった。 「熱斗くん?・・・熱斗くん??」 戦いの中で感じていた違和感がまた蘇り、次第にそれは不安へと形を変えていく。 今日の彼の言動、行動。 僅かながら感じていた変化。 それは何を示していた・・・? 「熱斗くん!?」 怒鳴るようにPETに向かい呼びかける声は、聞こえていないのか、返事はやはり帰ってこない。 いや、聞こえていないはずは無いのだ。なぜならばつい今PETからこの電脳空間へチップが転送されたのは紛れもない事実だから。 「・・・熱斗くんっ」 そうして長く叫んでいたのか。 急に身体が浮遊するような感覚が襲い、ふわりと一点へ流されていく。それはロックマンを構成するデータを呼び戻す信号だった。 先ほどのバトルチップの時と同じくまたしても突然に、ロックマンはプラグアウトされてPETへと引き戻される。 だが驚きよりも先に、熱斗が自分を呼び戻したのだろうという考えに安心した。 通信状況が悪かったのだろうか。 熱斗の声が聞こえない。 「熱斗くん、もう・・・!」 PETから伝えられる外の世界の風景が像を結びはじめて。 「急にオペレートが止まったから、どうしたの、か・・・って・・・」 目の前に広がる世界の中に見つかるはずの人物が。 「熱斗・・・くん?」 文句を言ってやろうと思っていた相手がそこにぐったりと倒れている姿を目の当たりにして。 淡く光る翡翠の両目は、大きく見開かれた。 --------------------------------------------- コメント▽ 続いちゃっててすみません; とりあえず前編だけ先にアップ。すぐに後編も書きます〜。一見アニメ設定でもいけそうですが、一応エグゼ2の市民ネットバトラーな熱斗くんで。 BACK |
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