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3. 「お待たせー。あれ、彩斗兄さん、それ・・・?」 すぐ近くの公園までやってきて腰を落ち着けることにした2人は、誰か知っている人と会ったら何と説明したら良いかと、口裏をまず合わせることにした。 何せ、科学省が極秘に進めているプログラムの実験だ。 一般にそう知れて良いものでもなかったし、そもそもロックマンと熱斗が双子の兄弟であることは一部の者しか知らないことでもある。 いちから話すとなれば、かなり長い話となってしまうので遠慮願いたかった。 「ああ、ありがとう熱斗」 まだ肌寒い季節。 とりあえずは温かい飲み物でも飲みながら、と熱斗が自販機に走っている間に、彩斗はベンチに腰を下ろして場所を確保してくれてたのだ。 しかし戻ってきた熱斗が目を丸くしたのは、その彩斗の姿にだった。 つい先ほどまではPETの中に居たときと変わらぬはずの、青い髪が・・・。 「その髪、それに目も!」 「これ?」 つんと引っ張って見せれば、やはり光に透けるそれは熱斗と同じ色彩を放っていて。 「何で! 色が、変わってる・・・!?」 もう多少のことでは動じないだろうと思っていた熱斗だったが、やはり彩斗には驚かされてばかりだ。 あわせて瞳も、同じ鳶色の対がぽかんと口を開けた熱斗の姿が映し出されていた。 「だって、目立つといけないからね。青い髪なんて普通無いし・・・それに、この色だったら従兄弟って言えばみんな納得してくれるんじゃないかな?」 「え、でも・・・ええっ??」 理由よりもなによりも、その色が変わるメカニズムが気になってしまって上と下を目が行ったり来たり、落ち着き無く泳いでしまう。 「これぐらいの融通はきくんだよ。元々は同じDNA情報から再現しているんだから」 そういって、ひらりと手をひらめかせると、一瞬手が通り過ぎた場所の髪が元の色・・・深い青色に輝いて見えた。 けれど手が過ぎた後は何事も無かったかのように、落ち着いた栗色へと戻っている。 どうやら何らかの方法で、視覚が捉える色を変化させているようだった。 人間の体を再現してしまえるようなシステムだ。 その色を変化させることなど、それほど難しいことではないのだろう・・・と、熱斗は納得しようとしたのだが。 「実際、熱斗の情報があるからこそ出来ることなんだけどね」 付け加えるようにして彩斗が説明した。 つまり、情報を持たない色には変えることは不可能ということ。 元々プログラム・・・ロックマンが持っていた「青」という色と、熱斗のDNAから得た「茶」という再現色が、今の彩斗のつくれる色なのだ。 理屈はひとまず置いといて、改めて自分と同じ色をした兄の姿を仰ぎ見る。 (そっか・・・彩斗兄さんも俺と同じ・・・こういう感じなんだなぁ) こうして見ると、自分と全く同じ色と顔のはずなのに、何故か彩斗の方が割り増しに格好良い気がするのは、気のせいか。 意識するとじっと見ているのが恥ずかしいことに思えてきて、熱斗は慌てて目を逸らした。 「どうしたの?」 「い、いやっ、何でも・・・!」 気をつけないと顔にまで出てしまいそうで、熱斗は必死に表情が見えないように下を向いたまま答える。多少おかしいと思えただろうけど、彩斗はそれ以上は追求してこなかった。 ほっと胸を撫で下ろして、熱斗は話題を元に戻す。 「ええーと、それじゃ確認。俺たちは従兄弟同士。彩斗兄さんは、俺のいっこ年上で・・・呼び方は兄さんってのこれでおかしくないよな」 「そうだね」 本当は同い年の2人であったが、それでは熱斗が「兄さん」と呼ぶのに違和感がありすぎるということで、年齢を誤魔化すことにしたのだ。 「メイルは彩斗兄さんのこと知ってるから、黙ってくれるよう説明しなきゃだけど」 幼馴染の少女は、事件の中で熱斗とロックマンの事情を知った数少ない人間のひとりだった。 理解ある彼女はそのことを外で口にしたり、熱斗の前でも話題にすることは無かったけれど、陰ながら見守ってくれるような優しさはいつも2人で感じていた。 きっと今回の出来事を知ったとしても、誰かに喋ってしまうことはないだろう。そう思ったからこそ、メイルには事情を最初から話すつもりでいた。 「週末の連休を利用して遊びに来たことにしておこうね」 「うん。ちょっと・・・嘘をつくのは皆に申し訳ないけど」 このまま会わずに済めば、つきたくも無い嘘をつかなくても良いのに。熱斗はそう思いため息をついた。彩斗もそのあたりの葛藤をよくわかってか、念のためだから、と気休めでも力づけるようなことを言ってくれる。 「・・・無用の混乱を避けるためにも、お互いに嘘をついておいたほうが良いことだって、あるんだよ」 「・・・うん、わかってる」 その言葉の重みは、何よりも熱斗にはわかっていた。 彩斗や両親が自分に対してつき続けてきた嘘。 これほど近しい人間に偽られていた事実はそれなりにショックだったけれど、それ以上に真実を知ったときの衝撃は大きくて。 熱斗に負担をかけまいとして、嘘をついてきた方はきっともっと辛かったに違いない。そのことをわかっているからこそ、熱斗はここで「嘘」を否定するつもりなかった。 「また難しそうな顔してる」 「えっ」 眉間に皺がよっていたのかも知れない。 俯いていた熱斗の額につんと指先が触れて、軽く後ろへはじかれた。 見上げるとむうとした顔の彩斗が目の前に居て、少し屈みこんだ姿勢で熱斗の目を覗き込んでいる。 「らしくないぞ、熱斗」 このことは彩斗にとっても苦い体験であったに違いないのに、こうして笑顔を向けて気遣ってくれる。そのことを思うと、熱斗は慌てて顔をあげて笑い返した。 嘘が知れたときどんな思いで・・・熱斗と向き合ったのだろう。 それを乗り越えられ、なお笑える彩斗の強さは計り知れない。 「なんだよ俺らしくないって!」 今までも彩斗からたくさんのものを貰い、守ってもらってきたけれど。それに対して熱斗が出来る一番のお返しは、いつも通りの調子で彩斗に触れ合うことだと思えた。 だから、考えるのは自分の性分では無いと。 難しいことはみんな周りに任せてしまえば良いから。 そうやっていつもの笑顔で答えることにする。 「いいですよー、どうせ、俺は頭脳担当じやないですよーだ!」 「あはは、ごめんごめん、拗ねないでよ。熱斗」 「ふーんだ」 つんとそっぽを向いて、まるで拗ねているかのように振舞ってみせて。 最初は「ふり」のつもりでしていたポーズも、いつの間にか真剣に演じているうちに本当に拗ねているような気分になってくる。 ・・・それを、単純なのだと言われてしまえばその通りなのだが。 いつの間にか本気になっていればそれが熱斗にとっての本当なのだ。 「ほんとゴメンってば」 「・・・・・・」 なんとなく収まりをつけるタイミングを失ってしまったようで、謝り続けられるとどこで許しを告げれば良いのか、熱斗は困っていた。 元々拗ねていたわけでもなかったので彩斗も別に悪く無いのだ。 だから「許す」という言葉自体が表現として不適切ではあったけれど。 でもだからと言って、このまま謝られ続けるのも色々と問題があった。 なぜなら気がついてみれば・・・。 「さ・・・彩斗兄さん、みんな見てるよ〜」 「・・・・・・え??」 もう。 ため息をつきたくなる衝動をこらえながら、熱斗は代わりに頭を抱えて周囲の状態を指し示した。 彩斗も注意を促されて見てみれば、すぐに自分がかなり目立っていたらしいことに気がつく。 ただでさえ目立つ2人連れ。それが公園の真ん中で言い合い・・・というか、一方的に片方が謝っていただけだが・・・をしていたとなれば、いくら人通りが少ない朝の時間とはいえ人の視線を集めないわけは無い。 「うわぁ」 「うわぁ、じゃないって」 まったく、このテンポのずれは親譲りとでも言うのだろうか。 このままさらし者になっているわけにも行かないだろう、と熱斗は耳打ちで場所を変えないかと彩斗に言おうとして。 「・・・・・・げ」 そのまま硬直した。 「どうしたの」 「ま・・・まずいかも」 目が、合ってしまったのだ。 「何が・・・あっ」 続いて彩斗もそれに気がついた。 2人が座っているベンチを遠巻きに見ている人々の向こう側に、覗くようにこちらを伺っている見慣れた姿。 「あああー・・・」 「よりにもよって、みんな揃いかよ」 確実にこちらへ近づいてくる少年少女たちの姿に、兄弟は良く似た瞳を絡め合わせながら、口には乾いた笑いを浮かべたのだった。 --------------------------------------------- コメント▽ もっとテンポ良く行きたいのです; うーん・・・難しい。 公共の場で騒いではいけませんよねぇ。まして朝ならばなおさら。目立ちまくりです。 BACK |
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