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1. 同じ顔、同じ声。 確かにそれは見慣れた相手のはずなのに。 その瞳に見つめられた瞬間、まるで金縛りのように立ちすくむ自分がいた。 「熱斗くん」 違う。 どこからどこまでも全く同じ存在のはずなのに、本能のようなものが警鐘を慣らし続けていた。 ざり・・・と一歩下がると相手も一歩進み、互いの間にある距離は変わらず数歩の長さを保ったまま。 「熱斗くん?」 こくり、と首をかしげてみせて、まるで困ったように目を細めてみせ・・・その仕草はいつもの彼のように見えるのだけど。 「どうしたの、熱斗くん」 首をゆるゆると左右に振りながら、差し伸べられた両手から逃れるようにもう一歩後ろへと下がり、熱斗は瞬きすることすら許されないかのように真っ直ぐそれを見つめていた。 同じ姿。 同じ声。 しぐさも雰囲気も、何もかもそれは彼が持っているもの。 「ねぇ」 けれど決定的に、何かが違うのだ。 たとえどんな精巧なレプリカを用いられても、まったく同じプログラムを並べられても。 それらに「違いなどない」と宣言されたとしても、熱斗にはわかるものがあった。 「違う」 ざり。 相手の歩みが止まる。 凄然と告げられた言葉は、まるで玩具の螺子を止めるキーワードのように。 「お前は違う」 はっきりとその違いを突きつける。 「ふふ・・・」 完全に動きを止めたそれは、口元に今までとはまったく異質な笑みを浮かべ、声をたてて笑った。 すぐ目の前であと少し手が届くかという距離にあった姿が、突然かき消えるように闇へ溶けていき、熱斗はようやくそれが自分の見ている夢だと気がついた。 ぱちり、と目を開けるとカーテンの向こうはうっすらと朝の光が射し始めている。 視線を移せば、机の上に何ら変わりなく立て付けられたPETがおいてあった。 *** 「・・・なんだ、逃げられたか」 暗闇の中で静かな声が響く。 言葉とは裏腹にどこか楽しそうにも聞こえる響きを持つそれは、熱斗が夢で聞いたものと同じだ。 「まぁいいや。ボクは焦らないし」 簡単に手に入らないものを奪い取る瞬間が、何よりの喜びなのだと。そのときにもう1人の自分が見せる顔を思い浮かべて、いっそう楽しそうに彼は笑った。 自分が一番に痛みを感じること。 それは同じように彼がその存在へ焦がれているからだということに。 ・・・彼はまだ気づかない。 おわり。 ------------------------------------- 黒様登場記念の突発小話でした。 かなり長い間拍手に入っててお恥ずかしいです; こちらが放送1ヶ月遅れなので、まだ36話未放送時の暴走ぶりです。(現在はリアルタイムに見てます) BACK |
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