2.

 絶対に何か隠してるんだ!


 昨日からどうも様子がおかしい、熱斗はPETの画面を見つめて問いかけるように無言の圧力をかける。
 その画面の中で答えるはずの相手は、けれどその視線から逃れるように立ち位置をずらし、熱斗から姿が見えづらい端のほうへと身を隠していた。
 明らかに挙動不審。

「ロックマン?」

 問いかけると、びくぅっと、背筋をぴんと伸ばしてオーバーアクションに反応をしてみせる。そしてササッと何かを背後にかばうように隠して振り向いて。

「な、何? 熱斗くん?」

 引きつった笑顔で返事をした。

「・・・・・・」

 あまりにもバレバレで怪しいその様子に、思わず深いため息をつきたくなってしまう。正確な計算も対応も出来るはずのネットナビである彼が、何をそんなにも慌てているのだろうか。
 とりあえず原因はその隠した背後にある「もの」のせいらしい事だけはわかっていた。
 そして何となくだけれど、頭の隅にひっかかる、いやーな予感。

(ああー・・・何だか、覚えがあるぞ)

 この反応。
 まるでかばうように手を後ろに回し、誤魔化し笑いをしながらじりじりと後退していくロックマンを眺めながら、熱斗はデジャヴのようなものを感じていた。

(なんていうか、あれだよ。すごい言いにくいことを親に見つけられた絶体絶命ピンチの図・・・って!)

 それに合致する経験を記憶の片隅からひっぱりだしてきて、答えにたどり着いた時には思わず叫んでいた。

「何を拾ってきたっていうんだよ、ロックマン!」

「わあーっ、ごめん〜熱斗くん!」

 どうやら、ビンゴだったらしい。

「うわーっ、何持ってんだお前ーっ!?」

 けれど、その勢いで振り向いたロックマンの手の中に納まる「物体」を見た熱斗は、それ以上に動揺して飛び上がる。

「うさ?」

 もっそりとてのひらサイズに収まる、うさぎ耳が愛らしい・・・

「オレ???」

「熱斗くんごめん、謝るから、謝るから・・・っ」

 お願い、デリートしないで。

 最後に小さな声で付け足された要望に、答えるとか答えないとか、そんなこと以前に。

「何だよ、それぇ・・・」

 なによりもその「物体」の解説を今すぐにしてもらいたいものだった。

「うさっ」

 きゃるん、と可愛らしく真ん丸い黒目で見上げてくるソレは確かに大きさ相応というか・・・ウサギの耳をつけていて微笑ましいものだったのだけれど。

(オレの姿で、小さくて、ウサギ耳で・・・!)

 これは何かの悪夢だろうか。
 卒倒せずに踏みとどまったことを褒めてもらいたいと思いながら、熱斗は心を落ち着けて、精神力と呼べるものを総動員しながら、ゆっくりと問いかけた。

「ロックマン・・・それは、一体・・・?」

「熱斗くん・・・」

 ふ、と顔を上げて緑色の目を大きく開いてこちらを見つめ返してくるロックマンに、少しだけ落ち着きを取り戻した熱斗は。
 しかし甘い考えであった、と次なる爆弾の投下に完全撃沈することになった。

「ねぇ、熱斗くん・・・このこ、此処に置いても良いかな?」

 ばったーん。

 こけたついでに今度こそ目の前が真っ暗になった気がする。
 慌てて自分の名前を呼ぶ声を聞きながら、熱斗は心の中でひとりツッコミを返していた。

 このコって、どのコだよ?
 置いていいって・・・それって、つまり。


 そのウサギの耳がついた熱斗を、飼ってもいいか、ということなのだろう。


「うさ」

 波乱はまだ、はじまったばかりである。




つづく。
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(再録コメント)
ちゃんとお話は最後まで考えてあります。
5、6話で終わらせたいと思ってます・・・。うさぎ熱斗くん、今回は本物熱斗くんばかりでしたが。


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