3.

「きゃあー、可愛いっ」

 可愛い?

「ほんと、小さくなると何でも可愛く見えるものなのねぇ」

 可愛い??

「・・・ぷ」

 ぷちり。

「笑うなっ!」

「あはははっ、悪ぃ熱斗。けどさー・・・」

 指し示される先には、ぴこぴこと真っ直ぐ伸びた耳を揺らしてスクリーンの中を右往左往している小さな影。
 メイルとやいとが楽しそうに弄んでいる「それ」が居た。

「びっくりしたわよ。ビデオマンを倒しても消えなかったのね、この子」

「たまにはビデオマンの作ったものも無害なことってあるのねぇ」

 そう。
 ウサ耳がついた小さな熱斗である。
 すっかり彼のことを気に入ったロックマンから無理やり引き離すわけにもいかず。だからと言って毎日携帯しているPETを周囲から隠すこともできずに、早々にメイルたちにより発見されてしまったウサ耳熱斗は、どういう要領か少女たちのハートまでもゲットして、現在2人にもてはやされていた。

「あああああ、ロックマンといい、なんでアレを可愛いっていうかなぁ」

 頭を抱えて突っ伏する熱斗をデカオがぽんと肩を叩いて慰めるそぶりをみせたのだが・・・けれどその目は笑っている。
 面白がっていられる人事ならばまだ気は楽なのだろうけど。本人である熱斗にとって、自分がウサギ耳をつけている姿を見せ付けられても、笑えるものではなかった。

「きゃあああー!」

 突然、いちだんと大きな悲鳴があがって、ばっと2人は顔をあげた。

「メイルちゃん!?」

 まさか無害そうに見えてもやはり相手はウイルス・・・何事か起こったのではないか。そう思って、慌てて駆け寄ったのだけれど。

「・・・見てみて、熱斗! やいとちゃんの新作チップをこの子に使ってみたの」

「・・・・・・・・・は?」

 ぴこぴこ、ふりふり。
 そこには何事も無く無事な少女2人と。
 ミニミニサイズのフリルつきリボンを頭に結ばれて、よろよろと歩くチビ熱斗。

「ねえねえ、熱斗くん。このドレスアップチップってすごいよね、ウイルスにもデータの書き換えが可能なんだ」

 そして嬉しそうに熱弁している、ロックマン。
 がくーっ、と力いっぱい脱力して、熱斗はなんだかとても泣きたい気分になりながら、かろうじて追求を避けるために「それは良かったな」と相槌を打つのは忘れなかった。
 どうしてだ。
 常識人は俺だけなのか。
 そもそも、ロックマンはどうしてこんな状態なんだ。
 それこそ悪質なウイルスにでも感染したのではないか。

「・・・とりあえず、今日はそろそろ帰ろう」

 突っ込みたいことは山ほどあったものの、全てを飲み込んでそれだけを口にする。メイルたちはもっと弄り足りなかったらしく「えーっ」と不満げな声を上げていたけれど、問答無用に3Dシミュレーターからプラグを引き抜いてロックマンを回収した。

「じゃあ俺、帰るから!」

 追求を振り切るように全力ダッシュで駆け去る際、デカオの無責任な「がんばれよー」という力の抜けたエールに思わず、今度覚えていろよと逆恨みもしながら。

「このままってわけにもいかないだろ」

 呟いて、ひっそりと決意を固めたのだった。




つづく。
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拍手のお話って前後の脈絡無く書けて楽しいです。読む方にはきっと読みづらいんだろうなぁと思いますけどね;
ここまではギャグでぽつりぽつりと続いてたんですけど、完結に向けてあとは一直線です。


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